LC/MSによる残留農薬の検査

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農作物の生産の際には農薬が使用されることがありますが、その農薬の残留量が一定を超えていると食用にリスクが発生します。そこでLC/MSによる残留農薬検査が行われます。LC/MS残留農薬検査とはどういったものなのかについて解説していきます。

LC/MCによる残留農薬検査は農作物だけでなく、畜水産物にも実施されており世界的にもスタンダードな検査方法の1つです。

LC/MSによる残留農薬検査とは

LC/MS残留農薬検査とは、液体クロマトグラフ(LC)で成分を分離し、質量分析(MS)部でイオン化させて行う検査方法です。特定の質量のみを選択して断片化することが可能となっており、その物質に含まれている成分を細かく調べることが出来ます。

様々な残留農薬の成分に対応できることから、幅広く実施されている検査の手段となっています。LC/MS残留農薬検査においては様々な薬品も使用され、その薬品の種類は検査の対象によって柔軟に変更されます。使用される薬品は異なりますが、液体クロマトグラフが使用されることと質量分析が実施されることは共通しているのでLC/MS検査と呼ばれます。

農産物に関する検査

厚生労働省では、農産物に関するLC/MSを用いた残留農薬検査を実施しています。その手順は穀類や豆類などの場合と、果実や野菜などの場合で少し異なります。穀類や豆類などの場合には試料10gに対して水20mLを加えて15分間放置します。

その後、アセトニトリル50mLを加えてホモジナイズや吸引ろ過を行った後に再びアセトニトリルを加え、正確に100mLになるように調整していきます。

その100mLのうち、20mLを採って塩化ナトリウムと塩酸を加えて15分間振とうします。15分間振とうするのは確実に混ぜるためです。

分離した水槽を捨てた後に、オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラムやアセトン、トリエチルアミンなどを混ぜて反応を確認します。

果実や野菜などの残留農薬を計測する際にはまず試料20gを量り採ります。これにアセトニトリル50mLを加えてホモジナイズした後に吸引ろ過を行います。ろ過が完了したら塩化ナトリウムや塩酸を加えて振とうします。

ここまでは穀類や豆類などの場合と基本的には同じです。その後、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水して無水硫酸ナトリウムをろ別します。果実や野菜などには穀類よりも多くの水分が含まれているので、この脱水という手順を踏む必要があります。

最後にろ液を40度以下で濃縮し、アセトンやトリエチルアミンを加えて残留農薬の濃度を計測します。農作物は残留農薬の影響を特に受けやすいのでLC/MSによる残留農薬検査が厳重に実施されるようになっています。

農薬の種別によってはエタノール溶液中では不安定になることがあるため、含まれている可能性のある農薬の種別に合わせて検査に使用する薬品などの量が調整されることもあるでしょう。

畜水産物へのLC/MS残留農薬検査

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畜水産物に対して直接的に農薬が使用されることはありませんが、農薬を含む植物をエサとしている畜水産物も多いです。そこで畜水産物に対してもLC/MSによる残留農薬検査が行われます。その際の検査方法は肉類と魚介類などの場合と卵や乳など場合で異なります。

肉類を検査する際には1つの部位だけを検査しても残留農薬の有無を完全に判断することは出来ないので、筋肉や内臓、脂肪などに分けて検査することになります。それゆえに検査結果が出るまでかかる時間が長くなることも多いでしょう。

肉類や魚介類への残留農薬検査を行う際にはまず試料20gが量りとられた後、そこに水を加えてホモジナイズがなされます。脂肪のように水分量が多いところを検査する際には5gが量り採られることになります。その後アセトンとヘキサンを混ぜた液体を100mL加えることにより、有機層が分離してくるので採取します。

後は有機層に対して試薬を使うことで残留農薬の有無を調べることが可能です。卵や乳の場合でも試料20gを量り採ってホモジナイズします。その後毎分2,500回転で5分間遠心分離していきますが、卵や乳は農薬の成分がついているとなかなか分離しにくい性質を持ちます。

それゆえに遠心分離が実施されるのです。分離して生まれたアセトニトリル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した上でろ液を取り出し、残留物に対してアセトンやヘキサンを混ぜて10mLに調整し、残留農薬の有無を調べます。

日本の残留農薬に対する基準

残留農薬に対しては各国が基準を設けており、その基準を超える量が検出された場合には販売することが認められません。日本は世界の中でも特に厳しい水準を設けています。例えばアジンホスメチルという成分については国際基準では5ppmまで認められているのに対し、日本では1ppmまでしか認められない規定になっています。

日本ではLC/MSによる検査精度が高く、ごく少量の農薬の成分でも検出することが出来ます。輸入物においては生産国の検査によって検出されなかった成分が、日本の検査において検出されるケースもあります。全ての残留農薬に対して日本が世界よりも厳しいということではありません。

ぶどうなどに含まれることもあるイミダクロプリドという成分については、日本で3ppmまで認められるのに対し、国際基準では1ppmまでしか認められないルールになっています。生産者は海外への輸出を意識する場合においては国際基準を満たすことが求められます。

LC/MS残留農薬検査は個々の会社で実施できるか

LC/MS残留農薬検査は厚生労働省の所管する機関などによって行われますが、自社で予め検査をしておきたいと考える方もいるかもしれません。LC/MS残留農薬検査において使用される機器はそれほど複雑な物ではありませんが、使用される各種の薬品には入手が容易ではない物も含まれます。

それゆえに個々の会社でLC/MS検査を厚生労働省と同水準で行うことは困難です。ただし、製薬会社と提携している会社などでは各種の薬品を入手できる可能性があるため、LC/MS残留農薬検査を行うことが出来ます。

また、厚生労働省と同水準ではないにしても、簡易版のLC/MS残留農薬検査を行っている会社は珍しくありません。

LC/MS残留農薬検査の今後

LC/MS残留農薬検査は信用性の高い検査として国際的に認められています。しかしながら、その技術については国家間の違いが生まれているケースもあります。日本など検査技術の高い国がその技術の輸出を行うことにより、どこの国でも精度の高い検査が行えるようにすることも重要と言えるでしょう。

自由貿易がさらに進むことによってLC/MS残留農薬検査の重要性も一層高まっていきます。